-異能者-

「なぁ有馬、こんな能力があったら良いと思わね?」
ベッドでねそべり、雑誌を眺めていた光男がふいに声をあげた。
「何だよ。」
その上から雑誌のページを覗いてみると「これが透視能力だ!」なんて
見出しが目にうつる。
「お前さぁ・・・まだそんな雑誌読んでんのかよ。」
呆れたように俺が言うと光男は目を輝かせながら起き上がる。
「だってさ、透視能力があったら女湯とか更衣室とか丸見えなんだぜ?
男にとっちゃ一度は手にしてみたい能力だよ!」
そんなに力説されてもなぁ・・・。
「そりゃ俺も欲しいと思うよ。でもこんな雑誌に載ってるのはインチキに
決まってる。現実にはこんな力存在しないよ。」
「有馬は夢が無いなぁ。あったらって話じゃん。」
「そりゃまぁそうだけど・・・。光男ってさ、昔からそんなの好きだよなー。」
「当たり前だよ。ミステリーとかSFとか、現実に無い物だから面白いんだろ?」
「まぁ・・・な。」
その後、再度雑誌を読み始めた光男を尻目に俺は辺りを見回していた。
・・・しっかし見事にSFオタクの部屋だよなぁ。
壁にはUFOのポスターが何枚か貼ってあり、本棚にはそれ関連や超能力関連の本がぎっしりと並んでいる。
『これさえなけりゃいい奴なんだけど・・・。』
人の趣味をとやかく言う気は無いが、光男の場合実際に色々と試そうとするのが玉に傷だった。だって毎回俺も付き合わされるから。
一度、夜中の学校に忍び込み「悪魔を召還」とか言って中庭に魔方陣を描こうとした事もあり、俺は眠くて仕様が無かったが仕方なく付き合った。
結果は・・・・当たり前だが悪魔なんてものは全く呼べなかった。
またある時は呪いの力を試すとか言ってやっぱり夜中に近くの神社裏に行き自作の藁人形を持って打ちつけようとしたり・・・・流石にその時は俺も止めたけど。
・・・そんなこんなで毎回光男の思いつきには正直、困っていた。

「ちょっとトイレ借りるぞ。」
「ん?あぁ。」
光男は雑誌から目を離す事なく生返事を返す。
俺は読書の邪魔をしないよう静かに部屋から出ると階段を下りてトイレに向かう。
「超能力ねぇ・・・。」
個室の中、俺は立ったまま暫く物思いにふけっていた。
『あったら便利だとは思うけど、実際マンガみたいなのはそうそう無いよな。』
念じただけで物が爆発したりとか・・・自分を浮かせて空を飛ぶとか・・・。
「・・・んな事が出来たら犯罪も自由だな。」
苦笑いをし呟くと俺はトイレから出ると二階に向かった。。
そして後五段ほどで上りきろうとした時、ふいに足が滑り視界がぐるんと回る。
ズダダダダダダダダダダ!!!
「うわああああ!」

「何だよこの音・・・ゆ、有馬!?」
突然の音に光男が部屋から飛び出してきたらしい。
暗転していく意識の中、自分の名前を呼ぶ声だけが頭に響いた。

「・・・・・。」
気が付くと俺は光男の部屋のベッドにいた。
あれ・・・?俺、確かトイレに行って・・・。
「有馬!気が付いたか!?」
まだ頭の中がグラグラしている・・・。
横にいた光男は心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
あぁそうか、俺は階段から転げ落ちたんだっけ。
「・・・光男・・・・。」
「良かった・・・!最初見た時は死んだと思って焦ったよ。」
「・・・・っつう!」
起き上がろうとすると頭が痛む。落ちた時に強く打ち付けたんだろうか。
そんな俺の背中に手を置くと光男はゆっくりと起き上がらせてくれた。
「大丈夫か?あんなに派手に落ちたんだ、頭を打ったのかもな。」
「あぁ・・・そうみたいだ・・・。俺、もう帰るわ。」
「おい待てよ、もう少し休んで行った方がいいんじゃないか?」
「いや、大丈夫・・・思ったよりは我慢できそうだ。」
その後何度も休んでいけと言う光男を振り切り、俺は自宅に向かった。
歩いている間も後頭部はズキズキと痛んだが倒れるほどじゃない。
そして、何とか自宅に辿り着くとすぐに自分の部屋にいき鏡を見てみた。
打ち付けたと思われる場所には少し傷らしきものが付いていたが
そんなに酷い感じじゃない。
「ふぅ、事故の割には酷い怪我がなくて良かった・・・う!」
一瞬ぐにゃり。と視界が揺れる。しかし本当に一瞬だけですぐに気分は
良くなり、さっきまでの頭の痛みもほとんど気にならない位に収まっていた。
「な、何だ・・・?」
何度か頭を振り部屋を見渡す。けどさっきまでの頭痛が消えてスッキリしたせいか
俺は深く考える事もなく服を着替え始めた。

「有馬、帰ってたんなら「ただいま」位言いなさいよ。」
丁度着替えが終わった所で母親がいきなり部屋に入ってきた。
「ノック位してくれよ・・・。ちょっと頭が痛くて早く部屋に行きたかったんだ。」
前を向いたまま母親の言葉に返事をする。
「頭痛?熱でもあるの?」
「いや、もう大丈夫。さっきいきなり痛みがとれ・・・・」
俺は何気なく母親に振り返った。すると・・・・。
「か・・・・・母さん!?」
「なによ?」
母さんの服が・・・・服が透けてるっっ!!!
「ふ、服・・・・服・・・・・!」
「服がどうかしたの?いつも見てるじゃない。」
口をパクパクさせ指を指す俺を母さんはいぶかしげに見ている。
「・・・・・・うぇ。」
突然の現象と母親の下着姿を見たせいか俺は少し気分が悪くなって座り込んだ。
「ちょっと・・!大丈夫!?」
「だ、大丈夫だって。俺・・もう寝るから・・・。」
「そう?・・・薬持って来ようか?」
「いや、いいよ。もう大丈夫だから。」
そういうとそのままベッドに一目散にもぐりこむ。
「・・・また酷くなったらちゃんと言うのよ?」
「判ってるってば。」
「そう・・・じゃあおやすみ。」

バタン。
布団の中でドアの閉まる音を確認すると俺は飛び起き頭を抱えた。
何ださっきのは。確か母さんの服が透けて下着が・・・・。
「夢。か・・・?」
何度も何度も自分の考えをグルグルさせ俺はベッドから起きると思い切ってクローゼットについている全身鏡を覗いてみた。
「あ・・・・・・・。」
暫く口を閉じる事が出来なかった。そこに映った俺の普段着は・・・・・消えていた。
いや、消えていたんじゃない。透けて見えていた。
そこにはパンツ一丁の男が間抜けな姿でうつっていたのだ。
「な、何なんだよこれはっ!!」
パニックを起こしそうなほど部屋の中をグルグル周って俺は考えた。
何で服が透けて見えるんだ?
さっきまでは何とも無かったぞ?
俺に何が起こってるんだ?
「はっ!?」
何週周ったか判らなくなった時、俺はふいに光男が言った言葉を思い出した。

『透視能力があったら女湯とか更衣室とか丸見えなんだぜ?男にとっちゃ一度は手にしてみたい能力だよ。』

「透視・・・・?」
まさか俺に透視能力が備わったというのか?
でも何故?そんなきっかけなんて・・・・。
「あ、もしかして・・・。」
今までの経緯から考えると、きっかけになったであろう心あたりは光男の家での転落事故だけだ。
「そういやあの時に頭を打って・・・さっきいきなりスッキリしたんだよな・・。」
あの時に何かが変ったんだろうか?確かめるために俺はもう一度全身鏡を覗いた。
「・・・やっぱり下着姿。だな。」
どうやら俺の考えは当っている様だ。
でもこんな力が付いてもいきなり過ぎて実感が沸かない。
おまけにだれ彼構わず見えるみたいだし、見たくない人物の下着姿まで見る羽目になってしまう。
「便利なのかどうなのか微妙だな・・・。」
普通の生活が一遍するかもしれない大事件のはずが、あまりにも突然だった為に俺は動揺をする暇もなくすぐに眠る事にした。

今考えても始まらない・・・明日光男にでも相談してみるか・・・。

                               続く