-友引町奇憚-

「ちゃあああ!」
曲がりくねったトンネルの中、ラムはなす術もなく
落ちていく・・・・。

-丁度一時間前-
「ダーリン!また浮気したっちゃね!?」
その日、いつものごとく諸星家の二階からラムの怒鳴り声が響いた。
「うるさいなぁ〜。ちょっとそこのお姉ちゃんに
電話番号を聞いただけだろ?」
近くにあぐらをかいて座っていたあたるは、面倒臭そうに
答え両手で耳を塞ぎながら立ち上がった。
「またナンパしにいくっちゃ!?」
あたるを止める様に、ラムは出入り口で仁王立をし
怖い顔で目一杯あたるを睨んでいた。
「散歩だよ、散歩。」
一言呟くとあたるは素通りをし、さっさと下に降りていく。
「まだ話は終ってないっちゃよ!?」
ラムの言葉も無視し、あたるは持ち前の足の速さで素早く出て行った。
「・・・・もう!!」
腕組みをしたまま部屋で溜息を付くと、少し床から浮かびながら
あぐらをかいたラムは色々考えていた。
小一時間ほどしたろうか、何か浮かんだ様に明るい表情になると
ラムは上空にある自分のUFOに向かって飛んでいった。

「ん〜と・・・あ、あったっちゃ。」
ゴソゴソと部屋を物色し、中から銃の様な形の
機械を取り出すとスイッチを入れて動力チャージを待った。
「随分使って無かったから壊れてなきゃいいけど・・。」
この機械は、撃つとその対象物を過去にすっとばしてしまうという
変わった代物だった。
以前、ラムはあたるが幼い時の時代に行くのにこれを使い
浮気の元を断とうとしたが見事に失敗していた。
「今度こそ・・・待ってるっちゃ、ダーリン♪」
二度目の挑戦をしようと企み、彼女は銃がチャージされると
その銃口を自分の頭に向けて撃った。
バシュウ!!
その途端ラムの周りの空間が一斉に歪み、トンネルの様に
渦を巻いて彼女を飲み込んでいった。
「ちゃあああーーー!」
あまりのスピードに、ラムは浮かび上がる力も出せずに
そのまま落ちていくしか無かった・・・。
どれだけ時間が経っただろう。
落ちていく先が明るくなったかと思うと、ラムはいきなり
放り出された様に何処かに落っこちた。
ドサッ!!
「いたっっ!・・・あれ?ここは・・・。」
落ちた先でラムは辺りを見回す。
と、何処かで見た事のある風景が目に入った。

「ここ・・・ダーリンの部屋だっちゃ・・。」
『確か・・うちが向かった時代はダーリンがまだ小さい筈なのに。』
だが、部屋にある物を見てもそれはさっきまでラムが居た
あたるの部屋そのものだった。
「おかしいっちゃね〜・・やっぱり壊れてるっちゃ?」
タイムトラベルが失敗だと思いラムが頭を傾げていると
部屋のドアがいきなり開き、あたるが平然とした顔で入ってきた。
「!ダーリン!どの面下げて戻って来たっちゃ!?」
そう言いながら自分をキッと睨むラムに対して、あたるは
不思議そうな顔をしている。
「何とか言ったらどうだっちゃ!」
「・・・・何の事だい?」
「何言ってるっちゃ!今日の浮気の事だっちゃ!」
「浮気・・・?そんな事してないよ?」
「とぼけてるっちゃね?」
ラムは指先から電撃を出す仕草をする。
それを見て、あたるは一瞬慌てるがまたすぐに不思議そうな顔をし始めた。
「ラム、今日は変だぞ?俺はこれから勉強するんだ。
悪いけど下に行っててくれないか?」
べ、勉強ぅうううう??
ラムはあたるの言葉に呆然とした。
ダーリンの口からそんな言葉が出るなんて・・・!
「!?」
ハッとし、手元に持っている銃型の機械を見つめる。
『ここは・・・きっと次元が違うんだっちゃ・・・!』
あたるのセリフでそう確信すると、ラムは部屋の窓から飛び出した。
「しまったっちゃ〜・・・早くUFOに戻って直さないと・・!」
あたるの幼い時代に行く筈が、全く違う次元の友引町に飛ばされてしまった。
ラムは慌ててUFOに向かった。
「あ!ラム・・・!!」
後ろからあたるが何か叫んでいたが、声は耳に入らなかった。

「ラムさん!」
途中、下から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
そこにいたのはいつもの白いガクランを着こなした面堂終太郎だった。
「なんだっちゃ?うち、今忙しいっちゃ。また後で・・・」
一度下に降りてそう言い、もう一度上に上がろうとすると
終太郎がいきなり足首を掴んだ。
「な、何するっちゃ!?」
「ラムさん、久しぶりに会ったんだから僕の家に遊びにきませんか?」
面堂はいつもの口調で丁寧に言う。
「最近諸星があなたに会わせない様にするもので僕は寂しくて・・・・。
あなたの近くに行こうとするといつも睨まれるんですよ。」
「ダーリンが?」
そんな事、元の世界で一度でもあっただろうか?
どうやらこっちの世界のあたるはラムを大事にしているらしい。
違う次元とはいえ、ラムはちょっと嬉しくなった。
「諸星には言いません。今日一日だけでもいいから
僕と付き合って頂けませんか?」
「で、でも・・・。」
「お願いします。ラムさん・・・。」
大げさな程に悲しそうな顔をして懇願する終太郎に
ラムは今日だけなら。という条件で付いて行く事にした。

だが、何故あたるが面堂からラムを遠ざけていたのか・・・。
さっきあたるが何を叫んで伝えようとしていたのか・・。
その理由を知らない事をラムは後で後悔をする事になる。

               続く